Part 6 分かりやすく書く(2)

ヒント40 短く言い切る

 日本語は、最後に来る述語で何が言いたいのかが分かります。ですから長い文は、最後の述語が来るまでの言葉を全部覚えておいて文末まで来なければ意味が取れません。だから頭が疲れるのです。

(◆は原文、は改善案)

◆休日前の金曜日は、1週間の疲労が蓄積され、集中力を欠きやすい状態にあり、事務ミスが特に発生しやすいため、管理職が事務作業の具体手順を正確に把握した上で、当該曜日に自ら点検および部下指導を行うことにより、事務の精度を高め、事故の未然防止を図る必要がある。(126字)

 このように、「あり」「ため」「上で」「により」「高め」と次々に後へ繋げないで、途中で何回か言い切りましょう。次の改善案では3つの文に分けました。

◇休日前の金曜日は、1週間の疲労が蓄積され、集中力を欠いてしまうことがある。そのため、事務ミスが発生しやすい。管理職は、事務作業の具体手順を正確に把握した上で、金曜日に自ら点検し、部下の指導を行う必要がある。(103字)

 原文は「ミスが発生しやすいので、上司が指導し、ミスを防ぐ必要がある」となっていましたが、「ミスを防ぐ」を割愛しました。それで同じことが伝わります。

(『文章力を伸ばす』)

ヒント41 一度にたくさんの荷物を渡さない

 前項の「短く言い切る」は、別の言い方をすると、荷物を一度にたくさん読み手に渡さずに、1つ1つ確認してもらいながら渡していく、ということです。

◆総面積5万坪の我が社の工場は、今から25年前、社長が32歳の時、画期的な基本技術を見出し、僅か5坪のプレハブの実験室で開発を始め、それを2人の仲間が支えて製品化に成功し、その後急成長した結果生まれたものである。

 こんなふうに1つの文に沢山の情報を詰め込んでしまうと、読み手に大きな負担をかけてしまいます。次の改善案では、たくさんの荷物を4回に分けて運びました。

◇今から25年前、社長が画期的な基本技術を見出し、僅か5坪のプレハブの実験室で開発を始めた。32歳の時であった。それを2人の仲間が支えて製品化に成功し、その後急成長を遂げた。現在の工場の総面積は、5万坪に達している

 最初に「社長が開発を始めた」で句点を打って一度着地しました。そこまでに「25年前」「基本技術の発見」「5坪のプレハブ実験室」という情報も付加されていますから、1つの文が運べる情報量としてはこのあたりが限界です。

 次に、当時の社長の年齢だけを説明しました。このような短い文が間に入ると、読み手はホッと一息つきます。リズムに変化も生まれます。

 次に、2人の仲間の協力と急成長について書いてまた着地し、最後に「総面積は5万坪」と付け加えました。
 総面積の話は、原文のように冒頭に修飾語として持ってくるのではなく、話の全体像が分かった後に付け加えるのが適切だと思います。最後に書いたからと言って、印象が薄くなることはありません。むしろ逆です。

(『文章力の基本』)

ヒント42 主役の数だけ文を分ける

 主役や主題が2つある時には、文も2つに分けると、分かりやすくなります。

◆私は後ろで支える地味ですが大事で誰かがやらねばならない仕事を行う庶務を志望します。

庶務は地味ですが誰かがやらねばならない大事な仕事です。私は皆を後ろで支えるその仕事を志望します。

 原文の1行目を読んでいる時、読み手は「何の話だろう?」と考えています。
 改善案は、最初の文で庶務の仕事の特徴を書き、次の文で、「私は、その仕事を志望します」と書きました。「庶務」と「私」を主語にした2つの文に分けたのです。

(『文章力を伸ばす』)

◆フィリピンはTPP加盟国で、EUとのFTA(自由貿易協定)も締結したベトナムに劣後することへの焦りが濃い。

※TPP(環太平洋経済連携協定)

ベトナムはTPP加盟国で、EUとのFTA(自由貿易協定)も締結した。フィリピンはそのベトナムに劣後することへの焦りが濃い。

 最初の部分を読むと「フィリピンはTPP加盟国」のようですが、後を読むと実はベトナムがTPP加盟国なのです。
 フィリピンとベトナムという2つの主語がありますから、文も2つに分けると、スラスラ分かるようになります。
 これは、「前提となる事実を最初に書く」の例でもあります。

ヒント43 挿入句は別の文にする

 文の途中に挿入句を入れると、述語(= 言いたいこと)がなかなか登場しないので、分かりにくくなってしまいます。挿入句は、なるべく切り離して別の文にしましょう。そうすれば分かりやすくなります。

◆まるまる2週間も中学生とはいえ子供のいない息子夫婦が、甥を預かるのは大変だったと言っていました。

◇息子夫婦には子供が(いないので、子供の扱いに慣れて)いません。ですから中学生とはいえ、まるまる2週間も甥を預かるのは大変だったと言っていました。

 原文では、「子供のいない」という修飾語が途中に挿入されていましたが、その部分を別の文にして、前に移しました。前提となる事実を先に説明したのです。
 挿入句を切り離して、後に添えた方がいい場合もあります。

(『文章力の基本の基本』)

 前項の最後の文例も、長い修飾語「TPP加盟国で、EUとのFTA(自由貿易協定)も締結した」を「ベトナム」の前に挿入したことが混乱の原因でした。

ヒント44 箇条書きにする

 いくつかのことを列挙する際には、箇条書きにすると飛躍的に分かりやすくなります。

◆健康的な食品を、価格は安いが、栄養バランスやカロリーを考慮し、かつ満腹感が得られるといった、人々のニーズに合わせて販売することができれば、現状も改善していく可能性があると考え、安くて簡単に摂取できる健康に良い食品を開発したい。(113字)

 一度にこんなにたくさんのことを言われても、読み手は受け止めることができません。言いたいことを整理すると、次のようになると思います。

◇私が開発を目ざしているのは、次の4つの条件を満たした健康的な食品である。
① 価格が安い。
② 簡単に摂取できる。
③ 栄養バランスやカロリーが考慮されている。
④ 満腹感が得られる。(84字)

 原文には、「健康的な食品」と「健康に良い食品」、「価格は安い」と「安くて」の重複もありました。箇条書きにすると、そのような重複にも気付きます。

(『文章力を伸ばす』)

ヒント45 表にする

 数字を比較する時に表にすると分かりやすいのは当然ですが、数字抜きの「定性的な内容」を比較検討する際にも、表にすると分かりやすくなります。全体像が一目で分かること、カテゴリー別に理解できること、文字数を大幅に少なくできることなどがその理由です。

カメラの広角レンズと望遠レンズの特徴

  広角レンズ 望遠レンズ
画角 広い
  • 広い範囲が写る
  • 被写体が小さく写る
  • 背景が広く入る
狭い
  • 狭い範囲が写る
  • 被写体が大きく写る
  • 背景が狭く入る
遠近感 誇張する
  • 近い物はより大きく、遠い物はより小さく写る
  • ドラマチックな効果を生むことがある
圧縮する
  • 近い物も遠い物も、大きさがあまり変わらない
  • 群衆や並木は密度が濃く写る
  • 山肌は垂直に近く写る
被写体の歪み 大きい
  • 人物のアップには不向き
    (鼻などが大きく写る)
小さい
  • 女性や、子供のポートレートに向く
被写界深度
(ピントの深さ)
深い
  • 前後にもピントが合いやすい
浅い
  • 前後はボケやすい
  • 撮りたい物だけにピントが合う
手ブレ 起きにくい 起きやすい
大きさ 短くて軽い 長くて重い

 

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「第2部 韓国がこの上なく快適な隣国であった頃」(続き)

 底抜けに親切な人びと 

 私が韓国に赴任して間もなく、近く日本に留学する予定のH医学博士を紹介された。初めて会った日、別れ際にHさんが、「今日の夜空いていますか? 後で電話します」と言っていたが、夕方電話がかかってきて、「実は、今日の夜、妹の家でパーティーをすることになっているんですが、そこに一緒に行きませんか」と言う。その妹さんの家は、私と同じ漢陽アパートの団地の中にあった。もちろん快諾した。

 夜、七時半頃、Hさんが迎えに来てくれた。今日は、妹さんの子供さんの一人の誕生パーティーだった。だから、幼稚園の年長組から小学校の二、三年生くらいまでの子供たちが十人くらい集まっていた。

 子供たちのお母さんも三人来ていた。奥の部屋には、我々を含め全部で七人の男性が集まった。今日会ったばかりのHさんが、皆に私を紹介してくれて、その後あぐらをかいて会食が始まった。子供たちの通っている私立の学校の先生も三人来ていた。酒が入るとたちまち打ち解けて、韓国語、英語、日本語の三ヵ国語が行き交う、全く肩のこらないパーティーになった。

 宴たけなわの頃、子供たちが皆仮装して現れた。天使の羽を背中に付けた女の子、インディアンになっている男の子、お化けになった子などだ。妹さんの娘さんは、長いほうきを持って魔法使いのおばあさんになって現れたが、そのほうきをマイク代わりにして、仮装した子供たちをひとりひとり部屋に招き入れて紹介した上で、即興のかけ合いをやった。

 娘さんが質問すると、仮装した子供が面白い答をして、大人たちを笑わせる。テンポよくセリフの応酬があって、私には全く分からないが、大人たちは腹を抱えて笑っている。最後は、お尻をぶったりして部屋を追い出して、「次いらっしゃい」とやる。そして、また気のきいたインタビューを始める。

 そのようにしてかなり長い間、演技力たっぷりに大人たちを楽しませてくれた。その芸達者ぶりには、舌を巻いた。うまく落ちがつくと、子供たちは全員下がって、そこでまた男どもは酒を酌み交わすことになった。

 今日そこに集まった人びとにとっては、私は全く予想外の珍客であった筈だが、全員が最大限の親密さで、温かく迎えてくれた。
 この経験を皮切りにして、大部分の韓国の人たちが日本人に底抜けに親切であることを、これから私は日々知ることになる。

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