Part 2 受け手発想で書く

ヒント06 読み手の側にまわってみる

 ある「日帰り人間ドック」に健診に行きましたら、受付で次のようなチラシを渡されました。それを見た途端に私は、「ここに何が書いてあるのですか?」と聞いてしまいました。すぐに検査着に着替え、荷物をロッカーに預けるように言われたので、ゆっくり読んでいる暇がなかったからです。

 どのように書いたら、利用者のニーズに合う文章になると思いますか?

人間ドックを受診される皆様

人間ドックのご案内

当センターをご利用頂き、ありがとうございます。本日受診していただく健康診断は、一部の項目を除いて午前中に結果が出そろいますのでお帰りいただく際、健診結果について医師が面接で説明するシステムです。血液・尿・便などの検体検査は、2時間程で結果が出ます。レントゲン・超音波・心電図などの検査については、数名の医師が読影・判定をする為、面接時に総合判定は出ませんが、所見などについて面接医が説明致します。(面接の開始時間は後程、ご案内します。)面接の所要時間はお1人様5分程度ですので、質問に対する詳しい回答が出来ない場合があります。現在の健康状態について質問や相談したい事などがある方は、検査中の内科診察の時にお話下さい。検査の進み方は検査内容によって多少異なりますが、受付時間を考慮して出来るだけ待ち時間の無いよう進めさせていただきますのでご了承お願い致します。ご不明な点がありましたら、フロアの係員までお気軽にお尋ね下さい。

 このチラシの裏面は、検査後に近くのカフェで使える500円の飲食券になっていました。そのことも付言してください。

ヒント07 1つの改善案

検査結果のご説明について

  1. 多くの検査項目は2時間ほどで結果が出ますので、お帰りいただく前に医師がご説明します。
  2. レントゲン、超音波、心電図などの所見も本日ご説明しますが、後日数名の医師が詳細に判定した結果を改めてご連絡します。
  3. 医師による本日の結果説明は、5分程度です。予定時刻は後ほどお知らせします。
  4. 現在の健康状態に関するご質問や、ご相談は、検査中の内科診断の際にお話しください。

※ 裏面は、近くのカフェの500円の飲食券です。検査後にご利用ください。

 文字数は、433字から192字へと56%減りました(飲食券の部分を除く)。
 これなら20秒もあれば、伝えたいことが伝わります。この例には、いくつかの着眼点があります。それを1つずつ考えてみましょう。

ヒント08 宛先とタイトル

 このチラシを読む人は、全員受診の受付を済ませたばかりの人ですから、「人間ドックを受診される皆様」という宛先は無用です。分かりきったことだからです。

 「人間ドックのご案内」というタイトルはあまりに漠然としています。これから受診を検討しようとしている人向けのタイトルです。
 「何の知らせだろう?」と思う読み手の疑問に答えるためには、改善案の「検査結果のご説明について」のような意味の狭い言葉を使うべきです。そうすれば一瞬で、このチラシの目的が分かります。

ヒント09 箇条書きにする

 このように多くの情報を列記する場合には、箇条書きにすべきです。原文のような“団子状態”では、何と何が書かれているのかを読み解くのが大変です。改善案のように4つの項目に切り離せば、理解がずっと容易になります。

 箇条書きのメリットを箇条書きにすると、次のようになると思います。

  1. どんな項目がいくつ列挙されているのかが、一目で分かる。
  2. 1項目ずつ理解したり、質疑応答したりすることができる。
  3. 文字数を少なくすることができる。
  4. 重複や、論理的矛盾、飛躍なども明らかになる。
  5. 飾りの部分やレトリック(修辞)が取り去られるので、言いたいことが明確にもなる。

 職場や学校などで作成される文書の場合には、上記 (2) のメリットが特に大きいと思います。ダラダラと書き流した文章をもとに、上司、先生や仲間と話し合うのは困難です。

ヒント10 重複や、無駄な言葉を省く

 箇条書きにすると、次のような重複にも気付きます。

 「午前中に結果が出そろいます」と「2時間程で結果が出ます」、
 「健診結果について医師が面接」と「所見などについて医師が説明致します」

 「本日受診していただく健康診断は」は、分かり切っているので不要です。

 「医師が面接で説明するシステムです」は、「医師がご説明します」が適切です。
 「システム」などという言葉で飾って書くのは勧められません。この「一口メモ」の冒頭で、「言葉を飾らない」ことの大切さを強調しました。

 改善案にあるように、
 「 (2) ……後日数名の医師が詳細に判定した結果を改めてご連絡します」
 と書けば明確ですので、それに加えて、「面接時に総合判定は出ません」のような文言を足す必要はありません。それも無用な重複です。

ヒント11 丁寧に書き過ぎない

 「当センターをご利用いただき、ありがとうございます」
 「ご不明な点がありましたら、フロアの係員までお気軽にお尋ねください」
 などの文言は善意から書かれたのでしょうが、検査前の慌しい時に、そのような言葉はかえって不親切です。
 高額の健診料を払っているのですから、不明な点があれば質問することを遠慮する人はまずいません。
  「丁寧に書き過ぎない」ようにすると、読み手に親切な文章になります。

ヒント12 必要な情報は書く

 チラシの裏面の「飲食券」については、説明しないと気付かずにチラシを捨ててしまう人も少なくないでしょう。受付では、職員がいちいち口頭で裏面の説明をしていました。無駄な言葉は省く一方で、読み手にとって必要なことは書くべきです。

 このチラシには、何故このように改善すべき点が多いのでしょうか?
 何よりもメッセージの送り手の側からばかり問題を見て、「念のため、あれもこれも」と思いついたことをどんどん書き足して行ったからです。その結果、重複や無駄が多くなり、伝えたいことがその中に埋もれてしまい、不親切な文章になっていました。

 一言で言うなら、「受け手の身になって考えたり感じたりする想像力」を磨けば、親切で適切な表現になります。これは事務的な連絡文書のみならず、エッセイなども含めたすべての文章について言えることです。

(『文章力を伸ばす』)

ヒント13 「ちょっと一息」半覚半睡の時が、一番創造的

 人は明け方の半覚半睡の時に、新たな着想を得ることがしばしばあります。潜在意識の中に眠っていたアイディアに、的確な言葉がふと結びつき、意識の表面に現れて来ます。眠っている間に、いろいろな記憶が配置換えされた結果なのでしょう。
 そういう時は、枕元のメモ用紙にキーワードだけでもすぐに書いて、また眠ります。書かずにいると、その着想がスッと消えてしまいます。

 人は夢の中では現実の束縛から解放されて、創造的空間を自由に飛翔することができます。その夢から半分覚め、半分現実の世界に足を踏み入れた時に新たな着想を得るという経験は、多くの人に共通するのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

(『明快な文章』)

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シリーズの「はじめに」から

 毛のふさふさした生後一ヵ月の兄弟犬が二匹、「ヒマラヤへの卒業旅行」(本シリーズ第4部)に同行した。彼らはシェルパに可愛がられ、抱かれて移動していたが、毎日の宿泊地に着くと飽くことなくじゃれ合っていた。くんずほぐれつ、上になったり下になったり、噛んだり噛まれたり……。

 朝、二匹が互いに相手の腹に頭を乗せ、一つのボールのようになって眠っていたかと思うと、山の上から照り始めた暖かい朝日を浴びて、たちまち取っ組み合いが始まった。彼らに、この世の中はどのように見えていたのだろうか。

 私にもはるか昔、そんな時があったような気がする。未知の世界に生まれ出て来て、見るもの、聞くもの、感じるものがすべて新鮮で、何かが約束された新しい世界が始まったと思った。

 生まれる前、自分がこれから生まれて生きるのだという予感などなかった。全く無の状態から知らないうちに生まれ出ていた。そしてそれから七十数年、絶え間のない命の流れが始まった。

 一つの小さい命に過ぎないから、「ささらぐ」(小川がさらさらと流れる)というささやかな言葉が相応しいのではないかと思う。ただ、その流れを描写する時に、作り話は避けて、読んでホッとするような本当の話を書きたいと思う。


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