Part 1 ウォーミングアップ

ヒント01 ある相談

 「私は文章力に大きな課題があると自覚しています」と言って、ある人が文章を添削(てんさく)して欲しいと送って来ました。その中に次のような文がありました。(◆は原文、は改善案)

◆働くということは、ただ単に収入を得たり、労働に対する対価を得るという物理的理由だけの目的で行うのではない。(54字)

 私が提案した改善案は、次のようにシンプルなものでした。

人は、お金のためだけに働く訳ではない。(19字、65%減)

 これ以上のことを、原文で述べていますか?
 原文では、「収入を得る」と「対価を得る」、「理由」と「目的」が重複しています。
 「物理的」というような、ことさら難しい言葉も使われています。
 書くことに自信のない人ほど不必要な重複を重ね、難しい言葉を使い、言葉を飾り、長く複雑に書いてしまいがちです。

 ただしこの文は無駄を削ぎ落してしまうと、いささか素っ気ない文になってしまいます。
 そこでまず「何のために働いているのか?」と思い悩んだ実体験を書き、その後、達成感、成長の喜び、チームへの帰属意識、時代の進歩と共に歩む喜びなどについて書き、その後で改善案の一文で締めくくると、内容豊かな文章になります。

(拙著『文章力を伸ばす』)

ヒント02 「いい文章」とは

 社会人や学生が書くことを求められる「いい文章」とは、
 「事実関係や自分の考えを、簡潔・明瞭に伝えて、読み手の理解と共感を得る」
ことのできる文章だと思います。
 それが書ければ、あなたの活躍の場は大きく広がります。

 それ以外のこと、たとえば、
 「モノを知らないと思われたくない」(教養の一端を示そう)
 「考えが浅いと思われたくない」(さまざまな点を考えていることを示そう)
 「語彙が乏しいと思われたくない」(難しい言葉も使えることを示そう)
などと無意識に考えて、肝心の理解と共感の得にくい文章を書いている人が 沢山います。

 ましてや、「気が利いた、技巧的な、文学的な文章」を目指すと、鼻持ちならない文章になりがちです。

 私がいい文章を書くための原則を列挙すると、「こんな基本的なことだけでいいのですか?」と言う人がいます。
 しかし基本的な原則を知ったとしても、それを踏まえて新しい文章を書くのは、簡単ではありません。多くの文例を吟味しながら、以下に述べる原則を「使いこなす」稽古をしてみてください。そうすれば確実に文章力が身に付きます。

ヒント03 文章を書く3つの喜び

 文章を書くことには、少なくとも次の3つの喜びがあります。
 「表現する喜び」
 「理解と共感を得る喜び」
 「相手や組織や、時には自分自身にも変化をもたらす喜び」
です。
 書きながら自己理解が進むと、進むべき方向も見えて来るのです。

 ですから明快な文章は、読む人に歓迎されるばかりでなく、書く人にとっても快いものなのです。
 この3つの喜びを知っていただくための「一口メモ」を、今回94話準備しました。1つの話は、すぐに読めると思います。これを13回に分けて掲載します。

ヒント04 文章力の7つの要素

 「文章力」は、単に「言葉を巧みに操る力」ではありません。次の7つの要素からなる、総合的な力です。

  1. よいテーマを見つける「着想力」
  2. テーマに関わるさまざまな事柄に連想を広げる「連想力」
  3. その中で書くべきことを見極める「優先順位の判断力」
  4. 書くべきことを「構造的に把握する力」(因果関係などの論理的構造、時間的・地理的関係などをつかむこと)
  5. そこに自分独自の考えを加える「創造性、独自性」
  6. 読み手の立場、心情、知識レベルなどを理解する「人間理解力」
  7. 読み手に伝わる簡潔・明瞭な言葉で表現する「言語表現力」

 多かれ少なかれ頭を使って仕事をしている人にとっては、この7つの要素は、業務遂行能力とほとんど重なり合っていると思います。

 最近は、「爆速でたちまち10倍速く書ける!」などとうたった本が人気ですが、本を1冊読んだら上の7つの要素がたちまち10倍速くなるということは、考えにくいですね。
 仕事のスピードは、問題の本質、勘所をいかにつかむかということと大いに関係しています。若いうちは時間をかけて、上記の7つの要素を巡ってあれこれ試行錯誤しているうちに、だんだんに迷路に迷い込む回数が減ってきます。
 そしてある時、仕事のスピードが、急に目覚ましく上がっていることに気づくと思います。

(『文章力の基本』他)

ヒント05 「書く力」は「考える力」

 文章の「内容を考えること」と「表現すること」は、同時に行われています。
 そもそも「考える」というのは、自分の内にある思いとピッタリする言葉を探すことではないでしょうか。人間は、生まれて以来のさまざまな体験や見聞を通じて、たくさんの思いを胸の内に秘めていますが、その多くは潜在意識の中にあります。

 ある日、その中のどれかにピッタリする言葉を見つけた時、
 「あっ、そういうことなのだ!」
と、考えがまとまるのです。ですから文章の「内容」と「表現」とは、まさに表裏一体の関係にあります。そう考えると、書く力は、考える力そのものなのです。

 昨今、教育改革の方向として、
「知識の量だけでなく、自分の頭で考えられるかどうかが問われる」
としきりに言われていますが、私は母語の文章力を磨けば、しっかり考え、それを的確に表現できるようになると思います。

(『文章力を伸ばす』)


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 最近私は、次のような7分冊の電子書籍を出しました。そこでこの「一口メモ」を私なりに実践してみたつもりです。どこかで接点がありましたら、忌憚のないご意見をお寄せください。

第1部:タイがこの上なくのどかであった頃
第2部:韓国がこの上なく快適な隣国だった頃
第3部:イタリアで我が人生を見つけたり!
第4部:ヒマラヤへの卒業旅行
第5部:若き日
第6部:コミュニケーションとアート
第7部:人生、これにてお開き

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