Part 12 視覚的効果と表記

ヒント80 ホワイト・スペースを活用する

 文章は一目見て読みやすそうな、美しいレイアウトで書かれていることが大切です。
 話に間(ま)が大事なごとく、文章にはスペースが大事です。紙面一杯にびっしりメッセージを詰め込むと、読む前から圧迫感を与えてしまいます。

 a. 周囲のスペースをゆったり取る
 紙面の周囲の余白をかなり狭くして文書を作成する人がいますが、そうすると活字が紙面からこぼれそうな不安を与えます。周囲の余白の額縁効果は大切なのです。料理の盛り付けは、お皿の7割に抑えるのがいいのだそうです。

 b. 行間を適切に空ける
 行間を詰めてしまうと、隣の行の文字と密着してしまうため、読みにくくなります。詳しくは拙著の「パターン認識」を参照してください。

(『文章力を伸ばす』P. 186-188)

 c. 段落の後のスペース、1行スペースを活かす
 改行して新たな段落に入ると、そこから新たな話が始まることが、視覚的にも読者に予告されます。改行で生ずる行末の余白は、読み手にひと息ついてもらうゆとりのスペースでもあります。

 意味の大きな切れ目や、小見出しの前に、1行スペースを入れるのも有効です。無駄な言葉を徹底的に削る一方で、意味のあるホワイト・スペースは、惜しみなく使ってください。

ヒント81 分かりやすい報告書の一つのモデル

 さまざまな組織の中で、とても読みにくい、分かりにくい、冗長な報告書が書かれています。下は、そのような文書の改善案の一例です。

【改善案】

(日付)

新入社員研修資料

海外事業本部の概況

海外事業管理部

A. 海外事業本部の担当業務

  • ① 海外において生産販売活動を行うための企画調査
  • ② 適切なパートナーの探索、打診、交渉
  • ③ 工場立地の探索
  • ④ 技術・プラント輸出、海外建設業務
  • ⑤ 人員派遣、研修生受け入れ、家族帯同などに関する業務、派遣者の生活環境の調査
  • ⑥ 海外事業の運営管理、状況次第では撤退に伴う業務

B. 組織と要員 (略)

C. 海外事業に携わる場合に留意すべきこと

(1) サプライチェーンの研究

  • 現在大きな変化が起きつつあるのは、中国である。人件費の上昇により、世界の工場としての地位は後退するが、技術開発レベルは向上している。所得水準の向上により、消費地としても重要になる。政治体制の将来、国際社会との軋轢は懸案事項である。
  • タイは重要な位置づけになっている。ベトナムも変化しつつある。
  • ミャンマー、カンボジア、フィリピン、バングラデシュなどは、近い将来どうなるか?
  • アンテナを張り巡らせて、これらの動向に目を配る必要がある。

(2) 国内関連部署との連携

  • 生産、販売、管理のいずれにおいても国内で事業展開するために長年培って来た経営資源の提供を受けて海外で事業を行うのだから、国内関連部署との緊密な連携が大切である。

(3) 現地における信頼と共感の獲得

  • 海外事業は、日本とは歴史、文化、宗教、政治体制、経済体制、法体系、社会習慣などが異なる社会の中で行うビジネスであるから、消費者、社員、取引先、地域社会、株主などの「信頼と共感」が得られなければ、成功は覚束ない。
  • まずは、生産、販売、管理のいずれにおいても、一流の人材となることが求められる。

(4) 国際感覚の錬磨

  • 外国人に対し、過度にへりくだったり威張ったりせず、ごく普通につき合えること、外国人と日本人の共通点と相違点のどちらをも強調し過ぎないことが大事である。
  • 相手の視点で自分をチェックできることも大事である。
    (例1)外国人とのビジネス交渉の場で、相手が自分たちの主張を説明し始めると、いちいち頷きながら聞く癖のある人がいる。相手は、自分たちの主張に賛成してくれているのだと受取ってしまうが、日本人の方にはそのつもりはない。外国語での交渉の場で、相手の言うことが理解できただけで、ホッとしてこのような動作を無意識にしてしまうのである。
    (例2)友好的姿勢を示そうとして、しきりに頷く人もいる。しかし、理路整然と自分の主張をせず、賛成でもないのにやたらに頷くような不可解な態度は、かえってマイナスである。
    (例3)相手がこちらのとても呑めそうもない要求をすると、意味不明の笑いを浮かべる日本人がいる。相手にとって不快である。
  • 海外経験が豊富で、語学が得意な人が必ずしも国際感覚を具えているとは限らない。

(5) 語学力

  • 国際ビジネスに適しているのは、母語の日本語で簡潔明瞭に、よく分かる話が出来る人である。それが出来ない人は、外国語を学んでも、明快なコミュニケーションはできない。
  • 海外には、英語を不得意とする人たちも沢山いる。その際には、現地語と日本語の間の通訳に頼ることになる。通訳を使う際には、日本語を簡潔明瞭に、短く言い切る必要がある。禅問答のような日本語を話したり、どこまで行っても句点(。)が来ない長い話をしたりすると、通訳はお手上げである。
  • 自分の言いたいことを母語の日本語で簡潔明瞭に整理できれば、自分で英語で交渉する場合にもコミュニケーションがうまく行く。

(6) 国際交渉力

  • 常にfair and reasonable(フェアで理に叶った)な姿勢を貫けば、相手の信頼が得られて、交渉が成功する可能性が高まる。
  • 冷静で logical な debate(議論、論争)をする力を鍛える必要がある。それはテニスの試合に似ている。点を取ったり取られたリしながら、ラリーが続く。逃げてはいけない。
  • 相手がとても呑めないような要求をした時には、毅然として「その条件を呑める可能性は全くない」とただちに断る必要がある。そういう姿勢が、一目置かれることになる。
  • 海外の交渉先から信頼されている人間を、「彼は相手の言いなりになるから、相手から好まれるのだ」と誤解する人がいるが、事実はその反対である。安易に言いなりになる人は、相手の側の評価も高くならない。

(7) マイクロマネジメントに陥らない

  • 日本にいて現地の経営の隅々まで知ろうとすると、メールで質問を連発しがちになるが、現地に派遣された日本人は、その対応に多くの時間を取られて、事業活動に専念できない。
  • 現地に派遣された人材と、日本にいる人材による二重管理は、非効率的である。
  • 日本語で事細かに報告することを求めると、人員の現地化を妨げる結果にもなる。
  • 半年に1度くらい海外代表者が日本に帰り、その間を縫って半年に1度くらい海外事業部の担当者が現地を訪れる、つまり併せて年に4回のチェックくらいで済ませ、緊急事態が生じない限り、マイクロマネジメントは控えるべきである。

ヒント82 上記文書の原文とその問題点

 添削を求めて送られた来た原文には、次のような問題点がありました。

(1) 文書の性格、目的、位置づけが分からなかった
 タイトルも、作成者名もなかったので、読み解きながら文書の性格、目的、位置づけを探らねばならなかった。そこで、「新入社員研修資料」「海外事業本部の概況」と記し、文書作成部署名も明記した。

(2) 構成が分からなかった
 小見出しもなく、いろいろな事がひと塊に書かれ、話の切れ目も構成も分からなかった。
そこで、A. B. C. という高レベルの見出し、その下に(1) (2) (3) や、① ② ③ という低レベルの見出しを設け、各見出しの前に1行スペースを入れた。
地の文は明朝にし、小見出しはゴシックにしてメリハリをつけた。目立つ小見出しだけを一瞥すれば、主たる内容が見通せるようにした。

(3) 重複が多かった
 最初にA、B、C…と7~8項目のことが書き流され、その後に、Aについては、Bについては…Cについてはと書かれていたので、その部分は無用な重複だった。小見出しを設けたので、その繰り返しはなくなった。
 文中にも、表現を少し変えただけの重複した記述が多かったので、そのような重複も省いた。

(4) すべてのことが書き流されていた
 多くのことを列挙する時にそれを書き流してしまうと、読み手は読みながら頭の中で箇条書きに組み替える必要があるので疲れる。だから最初から箇条書きにした。

 箇条書きのメリットは、次の通りである。

  • ① どんな項目がいくつ列挙されているのかが、一目で分かる。
  • ② 1項目ずつ理解したり、質疑応答することがでる。
  • ③ 文字数を少なくすることができる。
  • ④ 重複や、論理的矛盾、飛躍なども明らかになる。
  • ⑤ 飾りの部分やレトリック(修辞)が取り去られるので、言いたいことが明確にもなる。
  • ⑥「のほか」「まず」「併せて」「それに加えて」「一方で」「その他に」
     「その他にも」などの言葉でつないだり、「について」「においても」
     などと書いたりする必要もなくなる。

 職場や学校などで作成される文書の場合には、上記② のメリットが特に大きい。各項目に記号や番号を振ると、質疑応答にも便利である。

(5) 短く言い切るべきであった
 次に示すように、原文の冒頭の「海外事業本部は、」を読んだ読み手は、それを受ける述語の登場をずっと待ち続けることになる。大分先に現れる「を担っている」で、ようやく文が完結するが、その間ずっと「海外事業本部は、」を記憶したまま謎を掛けられたままなので、頭が疲れる。述語が最後に登場する日本語は、短く言い切ることが大事である。

 これらのことが相まって、原文はとても読み難そうで、読む意欲を失わせるものでした。そのような原文の前半だけを下に抜粋します。

【原文の前半】

 海外事業本部は、海外において生産販売活動を行うための企画調査、適切なパートナーの探索、打診、交渉、工場立地の探索のほか、技術・プラント輸出業務、海外建設業務、人員派遣、研修生受け入れ、家族帯同などに関する業務、派遣者の生活環境の調査、海外事業の運営管理、状況次第では撤退に伴う業務を担っている。組織は、海外事業第1部(アジア地域担当、〇〇名)、海外事業第2部(その他地域担当、〇〇名)、技術輸出部(〇〇名)、海外事業管理部(〇〇名)である。
 海外事業に携わる者は、海外事業本部内で働く場合にも、海外事業本部から委託されて海外に出向し、生産、販売、管理(人事、購買、総務、経理など)の分野で働く場合にも、次のような点に留意すべきである。
 まず年々変化している世界のサプライチェーンに絶えずアンテナを張るべきである。現在大きな変化が起きつつあるのは、中国である。人件費の上昇により、世界の工場としての地位は後退するが、技術開発レベルは向上している。所得水準の向上により、消費地としても重要になる。政治体制の将来、国際社会との軋轢は懸案事項である。(参考資料:日本経済新聞2021.11.3の社説「中国リスクの念入りな点検を」)
 タイは重要な位置づけになっている。ベトナムも変化しつつある。ミャンマー、カンボジア、フィリピン、バングラデシュなどは、将来タイのような存在になるかを見る必要がある。
 併せて、生産、販売、管理のいずれにおいても国内で事業展開するために長年培って来た経営資源の提供を受けて海外で事業を行うのだから、国内関連部署との緊密な連携が大切である。
 ビジネスは、商品やサービスを通じて「新しい価値」を提供するゲームだが、その本質は、「信頼と共感」の獲得にある。海外事業は、日本とは歴史、文化、宗教、政治体制、経済体制、法体系、社会習慣などが異なる社会の中で行うビジネスであるから、消費者、社員、取引先、地域社会、株主などの信頼と共感を得られなければ、成功は覚束ない。まずは、生産、販売、管理のいずれにおいても、一流の人材となることが求められる。
 それに加えて、国際感覚の錬磨も必要である。外国人に対し、過度にへりくだったり威張ったりせず、ごく普通につき合えることが大事だ。外国人も日本人も同じ人間だから、共通するものをたくさん持っているが、同時に歴史・文化の違いから、相違点もたくさん持っている。共通点と相違点のどちらをも強調し過ぎないことが大事だ。
 相手の視点で自分をチェックできることも大事だ。例えば、外国人とのビジネス交渉の場で、相手が自分たちの主張を説明し始めると、いちいち頷きながら聞く癖のある人がいる。相手は、自分たちの主張にすべて賛成してくれているのだと受取ってしまうが、日本人の方にはそのつもりはない。外国語で交渉の場で、相手の言うことがほぼ理解できただけで、ホッとしてこのような動作を無意識にしてしまうのである。友好的姿勢を示そうとして、しきりに頷く人もいる。しかし、理路整然と自分の主張をせず、賛成でもないのにやたらに頷くような不可解な態度は、かえってマイナスである。(後略)

 この調子で後半も続いていました。書き手の頭の中に浮かんで来たことを、浮かんだ順に書き連ねるだけで読み手への配慮を欠いていたので、読み終えるには根気が必要でした。

ヒント83 「 」を活用する

 セリフや引用部分のみならず、頭の中で感じたこと考えたことも「 」でくくると、読みやすくなります。生き生きとした感じや、臨場感も生まれます。

(◆は原文、は改善案)

◆登り始めはいつも少し肌寒い。1枚上に羽織るべきかと悩むが、5分ほどの辛抱ですぐに体が温まると自分に言い聞かせて歩き始める。

◇登り始めはいつも少し肌寒い。「1枚上に羽織るべきか」と悩むが、「5分ほどの辛抱だ。すぐに体が温まる」と自分に言い聞かせて歩き始める。

 「 」でくくると、主要なメッセージが浮き彫りにもなります。

◆このような人が性格が良いと評されることは少なくない。

◇このような人が、「性格が良い」と評されることは少なくない。

 これも、主要なメッセージが浮き彫りになるケースです。

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「第6部 コミュニケーションとアート」

 ビジネスの世界で意味不明の文章にさんざん悩まされた経験を元に、社会人や学生を対象に文章指導を始めて17年ほどになった。その過程で掴んだことを『命ささらぐ』第6部の前半に書いたが、このホームぺージでもポイントの整理を試みた。

中学2年の時に彫った版木が残っていた。

 日本列島のデザイン
 日本列島の形を、今一度眺めてみてほしい。軽く弓なりになった全体の形も良いが、四島の配置がうまく起承転結をなしている。もし北海道か、四国か、九州のどれかが欠けていたとするならば、間が抜けた感じになってしまう。

 どの島も、連携を保ちながら個々の役割を果たして、全体として均整のとれた、しかも緊張感を持ったデザインとなっている。

 子供の頃から当たり前のものとして日本の形を見てきたが、世界地図を開いてみると、日本ほど美しい形の国や島を見出すのは難しい。私の主観で言えば、インドシナ半島、イタリア半島、北米大陸などもいい形をしているが、やはり日本の形が秀逸だ。

 自然が作り出した偶然の所産だが、もし日本という国の形がなかったとして、デザイナーが白紙からこの形をデザインしたとするならば、グッド・デザイン賞を与えていいと思う。
 繰り返して言うが、これは純粋に美術の問題である。それ以上の意味はない。(抜粋)

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