ヒント67 五感を使って追体験できるように書く(1)
(◆は原文、◇は改善案)
共感が得られる文章を書くためには、強調語を使い過ぎたり、凝った表現を使ったり、感動を押し付けたりせずに、事実に淡々と語らせ、「追体験」してもらえるように書くことが大切です。
この文章は、特に最後の笑顔の場面が目に浮かぶので、悔しさを共有できます。
父親の誠実さや勤勉さが、目に浮かぶようです。これ以上の修飾語や解説は不要です。
(『文章力の基本の基本』)
文章は、まずは目に浮かぶように書いてみましょう。人は、頭の中にイメージ(映像)を思い浮かべることができた時に、そこに感情移入して共感を覚えるのだと思います。
次には、それを一歩進めて、聞こえるように、味わえるように、嗅げるように、触れられるように、体全体で感じられるように書けば、より共感してもらえます。
(『文章力を伸ばす』)
ヒント68 五感を使って追体験できるように書く(2)
この文章には、味覚のみならず冬の寒さ、視覚や触覚も呼び覚まされます。
(『文章力を伸ばす』)
この文章は、「音」が効果的に使われています。最後の部分は、状況が目にも浮かびますから、夫が孫をとても可愛がっていることが、生き生きと伝わって来ます。
(『文章力の基本の基本』)
このように、五感を使って追体験できる表現が共感を呼ぶのです。
エッセイを書く時には、何の前置きもなしに、読み手をいきなり現場に放り込むのがいい方法です。
ヒント69 余計な前置きを書かない
文章には、導入部分が必要だと思っている人がたくさんいます。しかし、さして意味のない前置きを読まされるのは退屈なものです。思い切っていきなり本題に入ることを勧めたいと思います。
この網かけ部分はよく見かける表現ですが、それだけに月並みです。この後、偶然の機会から願ってもない仕事にありついた面白い話が続きますので、その話をいきなり始めた方が良かったと思います。
さらに言えば、「次から次へと思い出される」場面は、書き手には見えていても、読み手には見えていません。それを「まるで夢のようだ」「感慨無量だ」と書かれても、共感することができません。
(『文章力を伸ばす』)
ヒント70 具体的なエピソードから書き始める
文章をいきなり具体的なエピソードから書き始めるのは、とても効果的です。
ある学生は、海運会社のエントリー・シートの「志望動機」欄に、「貴社の存在は、日本が貿易を行うにあたって必要不可欠です」と書いていました。それは誰にでも書ける抽象的な話で、少しも面白くありません。そこで、次のように書き始める案を一緒に作りました。
(『文章力の基本の基本』)
次のように書き始めることができるのは、その人だけです。具体性、独自性があるので、冒頭から関心を引きつけることができます。
(『文章力の基本』)
このように書くと、読み手の中にイメージ(映像)が浮かびます。「ですから私には、どんな困難にも負けない粘り強さがあります」などという解説は不要です。
ヒント71 修飾語、強調語を少なくする
修飾語を必要最小限に抑えた方が、説得力のある文章になります。特に最大級の強調語を使うと、読み手の気持ちがついて来られなくて、共感度を下げてしまうことがあります。
「非常に」「本当に」のような強調語は、取り去った方がかえって強くなります。引き締まった、断固たるメッセージになるからです。
何かにつけて、「強く感じます」「強く思います」と書くのも逆効果です。
「感動」「感激」などという言葉も、なるべく使わないようにします。
五感を使って追体験できるように書いて、それをどう感じるかは読み手に任せれば、自発的な共感が生まれやすくなります。
ヒント72 凝った表現を使わない
素直な飾らない表現こそが共感を呼びます。書き手のセンスや人柄は、そのような文章から自然ににじみ出て来ます。「気の利いた表現を使おう」「味のある文章を書こう」などとは考えないことです。
「自分がいた」という表現が流行していますが、ちょっと格好を付けてこういう表現を多用することは勧められません。
「軸にして」というような持って回った表現は避けて、よりストレートに書きましょう。
(『文章力を伸ばす』)
ヒント73 自分のことは控えめに書く
自己PRの文章を書いてもらうと、臆面もなく手放しで自慢話を始める人がいます。しかし、普段の人間関係と同じで、やや控えめで謙虚な人の方が好感を与えます。
この例は、改善案の方が謙虚であるばかりでなく、真実に近いでしょう。だから共感しやすいのです。「できます」「得意です」を繰り返す自己PRは、あまり効果的ではありません。
ヒント74 余計な結びも書かない
余計な前置きが不要なように、余計な結びも不要です。内容のあるメッセージを書き終えたところでスパッと文章を終えると、好ましい余韻が残ります。
このような締めくくりの言葉は、あまり共感を呼びません。思いを素直に表現したというよりは、「美しい締めくくりを書く」という型を踏襲しただけのような印象があるからです。
もっともではありますが、どこか借りてきたような言葉で、書き手の個性が感じられません。このような美しい抽象的な優等生的な結びは、文章全体の共感度をかえって下げてしまいます。
(『文章力の基本』)