ヒント22 重複を省く
簡潔に書くために、まずは重複を省きましょう。
(◆は原文、◇は改善案)
「母の味」と「要素」が、2度ずつ書かれていました。
「おいしい以前」と「おいしい以外」も、ほとんど同じ言葉です。
「あり」と「存在します」も同じ意味です。
「思い浮かんだ」と「考えた」の意味はほとんど同じですから、原文は、「考えたことは…考えました」と書いたのと同じです。
日本語は結論(言いたいこと)が最後の述語で表現されますから、最初に思い入れのあることから書き始めると、最初と最後に同じことを書いてしまいがちです。
ヒント23 無駄な言葉を削る
「基本的に」はよく使われる言葉ですが、もし突っ込まれたら「例外はあります」と言い逃れをするために書かれているかのようです。この例の場合は、2つとも取り去る方がいいでしょう。
(『文章力の基本』)
3つの「という」は不要でした。
「だったというのがあると思います」は「でした」で足ります。
(『文章力を伸ばす』)
ヒント24 「と感じた」「と考えた」「と認識している」を削る
文章は、書き手が感じたこと考えたことを書くものであることを、読み手は承知しています。ですから、文末に「と感じた」「と考えた」「ではないかと考えられる」「と思います」「のように感じます」「と認識している」のように書くのは、多くの場合余計です。
(『文章力を伸ばす』)
「という」も不要ですが、「考察をした」も不要です。改善案のように書けば、読み手はこの後に書き手の考えが述べられることを予想して、それを待っています。
ヒント25 難しい言葉で飾らない
多くの人が無意識のうちに難しい言葉で文章を飾ろうとしています。特に仕事に関する文章では少し改まった表現を使うべきだという思い込みが、妨げになっています。
原文の最初の網掛け部分は、改善案のようにずっと短く表現できます。 「この状況でも」は不要です。原文にはこの前後にも、特に意味のない「状況」という言葉がたくさん書かれていました。
必要がない所に、「状況」「現状」「存在」「背景」「視点」のような漢語を多用して、無意識に文章を飾ろうといている人が沢山います。
(『文章力を伸ばす』)
ヒント26 文頭をシンプルにする
一般に、「○○は(が)」と書き始めると、シンプルで分かりやすい文になります。
「○○において」「○○にとって」「○○によって」「○○とは」「○○ということは」「○○としては」のような書き出しは、ちょっと知的な香りがして魅力的かもしれませんが、文の形が複雑になります。そのため文頭と文末がうまくかみ合わなかったり、分かりにくくなったりしがちです。
「にとって」「こととは」という書き方をやめて、「私は」とするとシンプルになります。
ついでながら、「大学時代」と書けば、「学生時代」は不要です。
「オーケストラで」と書けば、「所属していた」は不要です。
「担当する」と「吹く」も重複していました。
(『文章力を伸ばす』)
ヒント27 動詞をシンプルにする
「学ぶ」と動詞1語で書く代わりに、「学びを受け取る」と名詞+動詞に分解するのが最近の流行ですが、冗長になります。
「乱れが発生する」とわざわざ長く書かずに、「乱れる」とシンプルに書きましょう。
(『文章力を伸ばす』)
「お預かりという形で対応」はいかにも冗長です。「形」という言葉で無意味に飾る傾向が最近見られます。
「同じことが、もっと少ない字数で書けないか」と、考える習慣をつけてください。
ヒント28 全体をシンプルにする
- 「さまざまな要素」と書いて話を拡散させないで、ここでは「技術力と経済力」に焦点を絞りましょう。
- 「教育が関係している」という遠まわしな表現は避けて、「教育の成果だ」と書けば簡潔です。
- 原文は、まず将来のことを述べ、それから過去の話をしていますが、時間を追って書いた方が理解しやすくなります。「基本は時系列」(後述のヒント32)です。
- 「確かに」「現に」「しかし」というような、意味のはっきりしないつなぎ語は取り去ります。
- 「私たち一人一人が幼いころから受けている教育」という表現にも「教育」という以上の格別の意味はありません。これも無用な飾りです。
無駄な言葉を取り去り改善案のように整理してみると、話はとてもシンプルになります。
(『文章力の基本』)
ヒント29 「ちょっと一息」 日本語の仕組み
「彼は車を運転して、1人で仕事場に出かけた」という文の構造は、次のようになっています。
彼は |
出かけた(述語) |
車を運転して | |
1人で | |
仕事場に |
ここから、次のような日本語の特徴が見えてきます。
- 最後の述語が来て、初めて意味が確定する。何が言いたかったのか(結論)が分かる。
- 「彼は」以下の左の4つの言葉が、すべて述語の「出かけた」にかかっている。述語中心言語と言われる所以がここにある。
- 4つの言葉は、「出かけた」の修飾語のような性格を持っていて、互いに対等である。
だから語順が自由である。思いつくままにどのような順にも書ける。
例:「1人で車を運転して、仕事場に彼は出かけた」
ヒント30 「ちょっと一息」 英語の仕組み
「彼は今朝早く奥さんに伴われて、心臓外科の専門医の診察を受けるために東京に行った」という文をもし英語で書くと、次のようになると思います。
He went to Tokyo (述語) |
early this morning |
with his wife | |
to see a doctor | |
who is a specialist in heart surgery. |
すなわち英語の場合には、「東京に行った」という述語を冒頭に示し、その後にさまざまな説明を付け加えることができます。
「今朝早く」「奥さんと一緒に」などの修飾句を後に添えたり、toで目的を説明したり、関係代名詞 whoでどのような医師かを説明できるからです。
英語はこのような仕組みを持っているので、述語(結論)が最初に来ます。たくさんの修飾語を最初に並べた頭でっかちの文になりません。
しかし、同じことを日本語で書く場合に、
「彼は今朝早く奥さんに伴われて東京に行った。心臓外科の専門医の診察を受けるためである」
とすれば、分かりやすさにおいて、英語とあまり遜色がなくなります。
英語の関係代名詞は、もともと2つの文をうまくつなぐ道具ですから、それを持たない日本語は、文を分ければいいのです。
日本語はその仕組みから、短く言い切ればとても分かりやすくなります。
(『シンプルに書く!』)