ヒント57 長めの主語の後に
(◆は原文、◇は改善案)
読点は、大きな意味の切れ目を示します。
長めの主語の後に読点を打つと、「Aが(は)、Bである」という文の基本形(ヒント15)が、一目で分かります。
(『文章力の基本の基本』)
ヒント58 長めの目的語の後に
長めの目的語の後に読点を打つと、「Aを(に)、Bする」という文の基本形(ヒント16)が、一目で分かります。
(『文章力を伸ばす』)
読点が全く打たれていないと、読み手は読みながら意味の切れ目を探さねばなりません。
ヒント59 原因と結果、理由と結論の間に
原因と結果、理由と結論からなる文章は、とても多く見られます。その間に読点を打つと、文の構造が一目で分かります。
(『文章力の基本』)
ここではまず、長めの主語の後に読点を打ちました。次に、理由の説明の後に打ちました。
(『文章力の基本100題』)
ヒント60 「状況・場」と「そこで起きていること」の間に
(『文章力の基本』)
「こういう状況で、こういうことが起きている」という読点です。次の原文のように意味のつながりがある所に読点を打つと、話がプツプツ切れてしまいます。
(『文章力の基本の基本』)
ヒント61 読点が欲しい場所一覧
読点を打つことが望ましい「大きな意味の切れ目」を、私は次のように整理しています。
<読点がほしいところ>
- ① 長めの「主語」の後
- ② 長めの「目的語」の後
- ③「原因」と「結果」、「理由」と「結論」の間
- ④「状況・場」と「そこで起きていること」の間
- ⑤「前提」と「結論」の間
- ⑥ 時間や場所が変わるところ
- ⑦ 逆接に変わるところ
- ⑧ 対比したり、言い換えたりする時
- ⑨ 別の意味に取られたくない時
- ⑩ 隣同士の修飾語の間に、予想外の関係が生じてほしくない場合
- ⑪ ひらがな、カタカナ、漢字ばかりが続く場合
- ⑫ その他(挿入句の前後、長い修飾語の切れ目、目的の説明の後、手段の説明の後など)
前項までで ①~④ の文例を示しました。
他の多くは拙著に譲ることにして、この後、⑨と⑩の文例を示します。
(『文章力を伸ばす』)
ヒント62 読点によって意味が変わるケース(1)
読点の有無によって、あるいはその位置によって、別の意味になってしまうことがあります。
最初の改善案の「この人」は人から希望を与えてもらう人ですが、次の改善案の「この人」は人に希望を与える人です。
(『文章力を伸ばす』)
「より多くの」と続けて読まれると、別の意味になってしまいます。そのために間に読点を打ちました。
(『文章力の基本』)
ヒント63 読点によって意味が変わるケース(2)
隣り合った修飾語同士が、想定外の修飾・被修飾の関係を持って意味が変わってしまうことがあります。読点でそれを防ぎます。
ここでデザインしたのはボタンでしたが、原文は婦人服をデザインしたとも取れてしまいます。
「ボタン」の前に、「当社がデザインした」と、「婦人服用の」という2つの修飾語が並んだために、「デザインした」が「婦人服」を修飾しているという誤解を生んだのです。
2つの修飾語の間に読点を打つと、誤解を避けることができます。
この場合には、次のように語順を入れ替えたり、2つの文に分けると、さらに明確になります。
(『文章力を伸ばす』)
ヒント64 意味の固まりを読点で分断しない
読点は、意味の大きな切れ目を示すものですから、一連の意味の固まりを読点で分断しないようにします。
「迎えた本番」は、間で切りたくありません。
上のように読点で切れば、主語+述語の基本形も明確になります。
「時刻表通りに運転する」も、分断すべきではありません。これも、長めの主語の後に読点が欲しかった例です。
(『文章力を伸ばす』『文章力の基本100題』)
ヒント65 句点は文末のみで打つ
1つの文の終わりには、必ず句点(。)を打ちますが、文の途中には打ちません。
この例は、「思っていた」という述語が来て初めて文が終わります。ですから、「有利である」の後に句点は打ちません。
最初の改善案は、句点を読点に換えて後に続けました。
次の改善案は、頭の中で考えたことを「 」でくくりました。こうすると、「 」の中は句点を打ちながら、書き進めることができます。
(『文章力を伸ばす』)
ヒント66 「ちょっと一息」 日本語は曖昧か
一部の人が信じているように日本語が曖昧だとか、非論理的だとかいうことはないと思います。日本語でも英語でも他の言葉でも、明快で論理的な表現もできれば、曖昧で非論理的な表現もできます。
ただ、日本人に曖昧な表現を好む傾向があるのは確かです。つまり、言葉が曖昧なのではなくて、人々が時にそれを曖昧に使おうとするのです。その理由は、主として次の5つではないかと思います。
- 日本では、お互いに相手が「一を聞いて十を知る」利発さを持っていると信じているかのように振舞うので、すべてを明確な言葉で説明してしまったら失礼にあたると考える。
- 日本は同質社会で、人と違ったことを言うと白い目で見られるので、相手との意見の相違があからさまにならないように、お互いに曖昧な表現で相手の意向を探り合おうとする。
- 相手を敬い、相手に裁量の余地を残そうとして、意図的にぼやかした表現で相手に問いかけようとする。
- ストレートに言わないで、婉曲的に表現した方が、奥ゆかしくていいという感覚がある。
- 長い間以心伝心を理想として来たので、それに甘えてしまって、「言い回しはまずいかもしれませんが、私の言いたいことは察していただけると思います」と相手の好意に期待してしまうところがある。
(参考文献:森本哲郎『日本語 表と裏』新潮社)(『文章力の基本』)